ここから西に向かって、名古屋市内最大の商店街、
大須商店街の街並みがあります。
私が教室の開設にあたってこの街を選んだのは、
研究生のみなさんに商店街を歩いてもらうためです。
文章を洗練させていくためには、音楽的な感覚を養わなくてはなりません。
文章にはリズムがあり、緩急があり、フォルテとピアノがあります。
読者を飽きさせない文章には、旋律があります。
これは意識してつくるというよりも、
身体的な感覚が文体ににじみでてくるものです。
そうした音楽的感覚を養うために、大須の商店街を歩いてもらいます。
商店街を歩くことは、
デパートやショッピングモールや地下街を歩くこととは違っています。
商店街には変化に富んだ路地があって、
歩行者は複数の路地を組み合わせることによって、
いくつもの異なる風景を楽しむことができます。
自動車が行き交う大きな交差点から、アーケードに入って歩き、
さらに路地を曲がって裏通りへ、と。
ここでは決められたルートはなく、
歩行者が通りの組み合わせを自在に変えることができます。
変化していくのは、風景、路面の質感、人と人との距離、匂い、
そして、音響です。
人通りの少ないアスファルトの道を40歩(メゾピアノ)、
アーケードの通りに入って買い物客の雑踏のなかを50歩(フォルテ)、
そこから建物のすき間のような小路に入って20歩(ピアノ)。
商店街を歩くことは、それだけで一つの旋律を構成する行為になります。
自分の身体が望むように、路地から路地へと歩いてみてください。
しだいに、自分が心地よいと感じるルートができあがっていきます。
心地よいルートをみつけたら、何度も繰り返し歩きましょう。
それが旋律に親しむということです。
(講師・矢部)
(講師・矢部)