2017年12月16日土曜日

講師からのご案内 ② 街を歩くこと、旋律に親しむこと

 
   大須作文教室は、大津通りの「赤門」という交差点にあります。
ここから西に向かって、名古屋市内最大の商店街、
大須商店街の街並みがあります。
私が教室の開設にあたってこの街を選んだのは、
研究生のみなさんに商店街を歩いてもらうためです。

 文章を洗練させていくためには、音楽的な感覚を養わなくてはなりません。
文章にはリズムがあり、緩急があり、フォルテとピアノがあります。
読者を飽きさせない文章には、旋律があります。
これは意識してつくるというよりも、
身体的な感覚が文体ににじみでてくるものです。
そうした音楽的感覚を養うために、大須の商店街を歩いてもらいます。

 商店街を歩くことは、
デパートやショッピングモールや地下街を歩くこととは違っています。
商店街には変化に富んだ路地があって、
歩行者は複数の路地を組み合わせることによって、
いくつもの異なる風景を楽しむことができます。
自動車が行き交う大きな交差点から、アーケードに入って歩き、
さらに路地を曲がって裏通りへ、と。
ここでは決められたルートはなく、
歩行者が通りの組み合わせを自在に変えることができます。
変化していくのは、風景、路面の質感、人と人との距離、匂い、
そして、音響です。
 
 人通りの少ないアスファルトの道を40歩(メゾピアノ)、
アーケードの通りに入って買い物客の雑踏のなかを50歩(フォルテ)、
そこから建物のすき間のような小路に入って20歩(ピアノ)。
商店街を歩くことは、それだけで一つの旋律を構成する行為になります。
 自分の身体が望むように、路地から路地へと歩いてみてください。
しだいに、自分が心地よいと感じるルートができあがっていきます。
心地よいルートをみつけたら、何度も繰り返し歩きましょう。
それが旋律に親しむということです。

(講師・矢部)